Androidナビは知名度が低いニッチな製品で、ユーザーもレビュー数も少ない。そのせいもあってかATOTOのAndroidナビは細かな仕様変更を繰り返し続けるのみで、長らくフルモデルチェンジした新型が出てこなかった。
いつ新型が出るんだろうという気持ちが募り続けていたなか、2024年にようやくフルモデルチェンジした最新型のATOTO X10が発売されたのでレビューする。
ATOTO X10(10インチモデル)の特徴・スペック
筆者が今回購入したのはX10の10インチモデル、X10G211E。セールとプロモーションコードの併用で約71,000円で購入した。
特徴は以下の通り。
- Snapdragon665搭載
- メモリ8GB
- Android13ベースのカスタムOS(AICE UI 13.0)
- 解像度1920*800のQLEDディスプレイ
- HDMI入力対応
- ワイヤレスCarPlay/Android Auto対応
- 70,000円~90,000円台
- 7インチ、9インチ、10インチの3ラインナップ
従来のATOTOのフラッグシップ機だったS8シリーズの上位互換に位置づけられるスペックで、S8の機能はそのままに、全体的にスペック向上と付加価値の追加が行われている。
X10の外観と内部構造
外観はディスプレイとマイク、ATOTOのロゴだけが配置されたシンプルなもの。ディスプレイは半光沢仕上げ。フチの部分はマットな仕上げになっていて、プラ感が強かったS8 Proと比較すると1、2クラス上の質感に見える。
側面から見ると本体と端子部分はコンパクト。大きさは2DINサイズ。
取り付け時は付属のケージを装着してナビスペースにはめ込むようになっている。
S8 ProはX10の付属ケージにあたる部分にもパーツが配置されている構造だったから、本体の大きさの違いは一目瞭然。
インターフェース
インターフェースは本体背面に集約されている。なぜか本体の向きに対して印字が上下逆になっている。
電源やGPSアンテナなどを除いて、ユーザーが任意に使用できるものは下記。
- USB-A(2.0) 2発
- HDMI (1.4)1発
- 通話・音声認識用マイク
- フロント・リアカメラ入力
- オーディオ系入力
- SIMスロット
USB-Aはそれぞれレコーディングストレージ用、外部記憶装置用となっているけど、スマホの有線充電やUSB給電式の電気製品にも対応する。
HDMIの主な使い道はスマホのミラーリング接続やFire TV Stickの接続。ATOTOはゲーム機も接続できることを宣伝しているけど、どれだけの人がそういう使い方をするかは不明。
マイクは端子が用意されているだけでマイク本体は付属せず。マイク自体はX10本体に内蔵されているから、使うかはお好みで。
カメラ入力はRCA端子に対応。端子が合っていればATOTOのカメラやその他市販品のカメラ映像もディスプレイに出力できる。
SIMスロットは本体からケーブルで延長されているタイプ。本体内蔵式に比べて交換はしやすくなったと思う。
不満のない処理性能と使用感
Androidナビ界隈、もっと限定すればATOTOのAndroidナビは処理能力がイマイチで、全体的にもっさりとした操作感が欠点だった。
X10もスペック的には決して高くないけど、実際使ってみると動作に引っかかりやもたつきはほどんどなく、意外なほど快適に使えてしまう。必要十分な処理性能は確保されているから安心してほしい。
Snapdragon665/8GBメモリ
Snapdragon665は2020年頃のミドル帯スマホに採用されていたSoCで、有名どころだとOPPO Reno3 AやSONY Xperia 10Ⅱに搭載されていた。
Antutuベンチマークスコアは約17万点と、2024年基準でみるとエントリースマホにも劣るスコア。だけどメモリを8GB積んで、Androidナビの主な用途に絞ればまだまだ戦える。
大幅に進化したOS・標準ホームアプリ
そしてATOTOのAndroidナビはカスタムOS「AICE UI」もイマイチ。独特な仕様と使いづらい標準ホームアプリの2段構えで、まともに使うためにはランチャーの変更から特定の手順でアクセスする隠し設定も駆使しないといけなかった。
X10もこのカスタムOSは継続しているんだけど、OSのバージョンがAndroid10からAndroid13に代った「AICE UI 13.0」にアップデートされた。全体的な仕様や動作が一新されていて、非常に使いやすくなった。
OSの設定もホームアプリも標準から変えなくても十分快適に使えてしまうレベルで、S8 Proを使ってきた身からするとこの進化にはちょっと感動。ATOTOにはこの調子でクオリティアップを進めていってもらいたい所存。
現代のスマホ準拠になった操作感
ホーム画面の操作は、現代のスマホの主流になったスワイプジェスチャを主体にしたもの。
画面左上から下へのスワイプでコントロールセンター、画面右上から下へのスワイプで通知一覧、画面下から上のスワイプでアプリ履歴が表示できる。アプリ履歴からアプリの画面分割表示も可能。
純正ホームアプリはウィジェットの大きさを自由に変更できる。何当たり前のことを言っているんだと思うかもしれないけど、これまでのATOTO機では不可能だったから一応改善点ではある。
アプリとウィジェットの固定配置が便利
画面下部にはアプリのショートカットや純正ウィジェットを固定・常時表示できるドック的なスペースが用意されている。よく使うアプリや機能はホーム画面に戻る必要なく、ここから1アクションで呼び出せる。
手元を見ず操作できるという点では物理ボタンには勝てないけど、車載端末向けの調整をしてくれているところには好感が持てる。
車種次第でエアコン操作ができるかも
この純正ウィジェットにはエアコンの温度と風速調整のリモコンがあった。筆者の車はエアコンの操作が独立しているタイプで、カーナビの配線にもエアコン関連のケーブルは含まれていないから操作はできなかった。
最近の新型車でたまに見かける、車載システムの画面内でエアコンを操作するタイプの車なら使えるのかもしれない。
扱いやすさと設定範囲のトレードオフ
X10はソフトウェア的に正当進化を遂げて扱いやすくなった反面、これまで筆者がS8であの手この手で弄っていた一部設定の変更はできなくなった。
全部一般的な用途にはほとんど影響しない部分だから、興味なければ流し見でOK。
工場設定パスワードは非公開
筆者がS8を使っていたときは、通常はアクセスできない隠し設定も弄っていた。隠し設定へのアクセスには工場設定パスワードが必要で、以前はATOTO公式サポートに問い合わせたら教えてもらうことができた。
X10にも同様の設定は存在しているけど、今回もパスワードをサポートに問い合わせてみたら一般ユーザーには提供を想定していないとの理由で拒否された。工場設定にたどり着ければもう少し弄れる項目があるかもしれない。ただ、X10の完成度が高いから個人的にはこれ以上弄る必要はないと思っている。もしパスワードが入手出来たら調査してみるつもり。
ユーザー補助機能の画面にアクセスできない
ホームアプリやショートカット系のアプリで時々要求されることがあるユーザー補助設定は、管理画面へのアクセスができず、許可の操作が出来なくなっている。
そのため標準以外のホームアプリでアプリ履歴の操作が出来なかったりと、一部操作の設定に支障がある。殆どいないとは思うけど、筆者のように弄りまくっていた人は注意しておきたい。
スリープ機能を無効化できない
ATOTOのAndroidナビは車のエンジンを切った後にスリープ状態に入る仕様で、わずかだけど車のバッテリーの電力を消費する。
S8は隠し設定画面からこのスリープ機能をオフにできたけど、サポートに問い合わせたところX10にはスリープ無効の設定自体が存在しないらしい。その代わり、168時間(7日間)のスリープ後に自動的に完全シャットダウンになるように設定されているとのこと。
長時間運転しないときに完全に電源が切れるならそれで問題ない。
位置情報設定画面にアクセスできない
ATOTOのAndroidナビは位置情報取得に使用する衛星の初期設定が悪く、日本で使うには精度が低い状態が発生しやすくなっていた。この問題はGoogle電話帳アプリを使った設定方法で解消できたけど、X10はこの画面へのアクセスができなくなった。
ただ、X10は位置情報関連の設定が最適化されているようで、GPS、GLONASS、BeiDou、Galileo、みちびきを捕捉しているのを確認した。位置情報の精度も常に高いからユーザー側で何か手を加える必要が無くなった。
CarPlay/Android Autoはワイヤレスのみ
最近のカーナビの基本的機能になるスマホ連携(CarPlay/Android Auto)は当然X10にも搭載されている。
ただしX10のCarPlay/Android Autoはワイヤレス接続のみ対応。従来のATOTO機は有線と無線の両方に対応していた。接続の安定性という面では有線接続も残してほしかったので少し残念。
無線接続は稀に接続が切れる
筆者の過去の経験上、スマホ連携のワイヤレス接続は時々接続が切れてしまうことがあるから、車旅行とかで土地勘のない場所を走るときは有線接続にしておきたいと思っている。2024年の初めに神戸まで車で旅行に行ったときはS8 ProでワイヤレスCarPlayを使っていたんだけど、運転中に2回接続が途切れたことがあった。
ワイヤレス接続が切れる原因を調べてみると、iOS側のバージョンも影響しているようで、ATOTO機特有の現象ではないらしい。発生頻度は高くないけど、運転中に突然ナビ画面が消えてしまうのは困る。有線接続はまだ必要。
OTAアップデートは一長一短
ATOTOのAndroidナビは定期的にバグ修正や機能追加のアップデートが行われているんだけど、従来のATOTO機は公式サイトからアップデートファイルをダウンロードしてUSBメモリに保存、USBメモリから本体に読み込ませる、という昔ながらの面倒な手順を踏む必要があった。
X10はOTAアップデートに対応したから、スマホと同じようにオンラインでファイルをダウンロード、インストールできるようになった。ただし簡単になった反面、ダウンロードとインストールの両方を車内でできるようにするための準備が必要になった。
2024年8月の時点で約1.8GBのアップデートファイルが配布されていたから、通信量の確保は必須。ポケットWi-FiやPovoの24時間データ使い放題を契約して準備しておきたい。
X10のその他付加価値
その他X10には色々な付加価値が用意されているけど、あれば嬉しい程度のもので購入の決め手にはならない。それぞれ簡単に感想を書いていく。
AI搭載(Drive Chat)
GPT-3.5 Turboを簡単に呼び出して、本体の音声操作と簡単な調べ物ができる。
認識精度は普通、回答速度と精度はイマイチ。現状活用方法は見いだせない。
車両追跡機能(Track HU)
X10本体の位置情報を利用して車両の移動経路・距離・速度などを自動的に記録してくれる機能。QRコードからアクセスできる専用の管理画面から確認する。
約15秒間隔で自動的にトラッキングされていて、精度もかなり正確。盗難時に役立つかもしれない。
Bluetoothロック
接続したスマホが一定距離から離れると自動的に端末がロックされる。車検や整備で他人に車を預けるときに画面を見られたくない人には役立つかもしれない。
デュアルBluetooth接続
2台のスマホに同時接続して音楽を再生できる。家族持ちやカップルなら便利かもしれない。
X10は扱いやすいAndroidナビ
ATOTO X10でATOTOのAndroidナビに対する筆者の印象が変わった。
これまでは独特な仕様で扱いにくいピーキーな端末で、一般層にはおすすめし辛いものだった。だけどX10は購入後ほとんど箱出しから初期設定のままで使い続けているし、不満はあるものの十分快適に使えてしまっている。X10はこれまでのAndroidナビとは違い、ガジェットオタク向けの変態機から一般層でも使える高性能ナビとしておすすめできる機種になった。
Androidナビが気になっている人なら購入して後悔はしないと言える。それくらいX10は良い。
S8との価格差とS8の存在価値
X10のネックは価格。ATOTOのフラッグシップだったS8シリーズの最上級グレード、Ultra Plusは70,000円~80,000円に対してX10は70,000円~90,000円。クーポンやセールの傾向的にS8 Ultra Plusが約10,000円程度安いし、少しグレードを下げたProなら50,000円~60,000円で買える。
この価格差に対するX10のアドバンテージは処理性能とより洗練されたカスタムOSの2つになる。
ここまでのレビューの通り、X10は従来のATOTO機とは全く違う完成度の高さでユーザー体験は別物。しかもS8は細かい仕様変更を繰り返しつつも発売開始から既に4年以上経過していて、SoCやOSは完全に旧世代。
筆者がいままで使っていたS8 Proも、使用感は最低限使えるラインをギリギリ超えた程度のもので、今から購入する価値は薄い。買うならX10にしたほうがいいというのが筆者の考え。
ただ、S8からX10にわざわざ乗り換える必要があるほどの性能差があるわけではないのが微妙なポイントでもある。今S8を使っている人は、そのまま使うという選択肢も全然アリだと思う。
スマホ連携特化ならA6シリーズとF7シリーズがある
「CarPlay/Android Autoしか使わないから安いのでいいや」という考えでS8を選ぶのは待ってほしい。なぜならS8の下には20,000円~40,000円台で買えるA6やF7がある。
A6はS8よりさらに1ランク下の処理性能、F7に至ってはLinuxベースでAndroidのアプリは使えないけど、どちらも全機種でCarPlay/Android Autoに対応している。
これから購入するなら機能を絞ったA6かF7、Androidの機能を十分に使いたいならX10、というのが最終的な結論になる。